試作コストが膨らむ3つの原因と中小製造業の解決策

試作

「試作品を何度も作り直してしまい、気づけばコストが膨らんでいる」「納期が迫る中で妥協して出荷した」──中小製造業の現場では、こんな悩みをよく耳にします。試作が増えることで直接コストが増えるだけでなく、リードタイムの長期化や得意先からの信頼低下にもつながります。

私自身、20年以上の開発現場で、こうした試作コスト増加の事例を数多く見てきました。では、なぜ試作コストは下がらないのか?その理由は大きく3つに整理できます。

理由1:設計段階での検討不足

最も多いのは「設計段階での検討不足」です。
たとえば、樹脂の成形品で肉厚を上げて応力を逃がそうとしたところ、成形時の収縮で反りが発生。結果的に、溶着部に隙間ができて漏れが発生しました。本来なら初期設計段階で変形や応力の挙動を考慮すべきところを、後追いで修正せざるを得なくなり、試作が繰り返されました。

経験則や「これで大丈夫だろう」という思い込みで設計を進めると、熱や応力の影響を見落としやすく、結果的に高コスト化を招きます。

理由2:得意先要求への過剰対応

次に多いのが「得意先の要求をそのまま受け入れる」ことです。
ある案件では、最大温度×使用時間という「現実にはあり得ない条件」で設計を進めた結果、過剰スペックを追い求めてしまいました。温度頻度のデータがなかったため、得意先仕様をそのまま受け入れてしまったのです。その結果、リードタイムギリギリでなんとか製品を出荷できたものの、余計な試作を繰り返したことで、コストも人員も大幅に浪費する結果になりました。

本来は「温度×頻度(時間)の積算」で条件を設定し、代替案を提案すべきでした。仕様の背景を理解せず、言われるままに設計すると、ムダな試作が増える典型例です。

理由3:CAE活用不足

CAE(シミュレーション)は有効な手段ですが、使い方を誤ると逆効果になります。
「すべての条件をCAEで検証しようとして時間ばかりかかり、結局“作った方が早い”」というケースは珍しくありません。

重要なのは、CAEで検証すべき部分の見極めです。設計段階で形状や構造をできるだけシンプルにすれば、多くは机上計算で検討可能になります。逆に、机上計算では複雑すぎて扱えない部分にこそ、CAEを集中して用いるべきです。この切り分けができないと、解析コストばかり増えて試作削減につながりません。

解決策:3つの視点で試作を減らす

1. 初期設計で熱マネ視点を導入する

最初から「熱をどう逃がすか」を考慮するだけで、多くのトラブルは未然に防げます。樹脂成形の反りや溶着不良も、変形を見越して設計すれば試作回数を大幅に減らせます。

2. 得意先要求の真意を把握する

仕様を鵜呑みにせず「なぜその条件が必要なのか?」を問い直し、場合によっては代替案を提示することが大切です。得意先は「安全マージン」を込めて仕様を出すことが多いため、その背景を理解できれば、より合理的な条件で合意でき、試作削減につながります。

3. 設計をシンプルにし、CAEを効率的に活用する

CAEは万能ではありません。解析コストと時間をかけすぎると本末転倒です。設計をできるだけシンプルにして机上計算で処理できる部分を増やし、どうしても複雑で不確実な部分だけをCAEで検証する。このバランスを徹底することで、効率的に試作を削減できます。

私の経験では、このアプローチにより試作のコストを約1/2、リードタイムを約1/2に短縮できた例があります。経営層への報告では「シンプルな設計」「CAEの効率的活用」で「コスト・リードタイム削減」とシンプルに伝えることで、即座に成果を理解してもらえました。

まとめと次のステップ

試作コストが下がらない理由は、①設計段階での検討不足、②得意先要求の過剰対応、③CAE活用不足の3つに集約できます。そして解決の方向性は、初期から熱マネ視点を導入すること、得意先要求の真意を理解すること、設計をシンプルにしてCAEを効率的に活用することです。

試作削減は単なるコストダウンではなく、納期短縮・品質安定・得意先からの信頼獲得につながります。経営改善に直結する施策だからこそ、今すぐ取り組む価値があります。

「自社でもできるのか確かめたい」という方は、ぜひ無料相談(10分)をご利用ください。具体的な課題に対して、改善の方向性のヒントをお伝えします。

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